編集発行人 コサカが贈る勝手きままな
つれづれ日記です。ハッピーな日もブルーな日も
美味しい珈琲で、一息いれてください。


6月18日 さよなら「エルザ」藤元マスター

自家焙煎エルザ  店主 藤元信也さんと祥子さん、朋子さん




このところ気持ちが落ち込み、
もう消えてしまいたいと思うことも多い。
自分の文章を書くことへの勇気がでず、
うじうじと逃げてばかりいる。
よし!と思いきって書いたものへの感想は
かんばしくなく、ああ、やっぱり素の自分では
ダメなんだーと意気消沈する。
ああ、何もしていないのに疲れるって台詞、
もう店を閉めた佐賀の喫茶店のマスターが
笑いながら言っていたけど、私もそうだ。
2ヶ月ほど前から喉がつまるような違和感があり、
ストレスか異変かわからないので、一応、病院へ。
喉には異常なしとの診断を受け、再びネットをみていると、
更年期のひとつの症状らしい。
そうか、もう、そういう時期か。
歳月は、確実に歩をすすめているのだ。



気がつけば夜中、訃報の知らせ。
宮崎は高鍋の「エルザ」の藤元マスターが
病院で手術を受けたきり、病室で息を引き取ったと、
娘の朋子さんからメールが入っていた。
何かあったら必ず知らせてくださいと
お願いしていたのだ。
手術のため入院する前、ちらっと立ち寄った
「エルザ」で顔をあわせた最後の客が、
年に1回来るか来ないかの私だったらしい。
「すっかり痩せてしまってかいよ・・・」
ぽつりと呟く藤元マスターに
「また戻ってきますよね!」と、
いつものように明るく言ったら
「そうね、また戻ってくるかい。大丈夫やろ。
ちょっと行ってくるだけ」と照れくさい顔で
返事をして、店から病院へ向かった藤元マスター。
絶対にまたこのカウンターで再会して
話すんだとばかり思っていた。
でも人には寿命があって、それは避けようがない。
藤元マスターの絵を表紙にすると話していた
「九州喫茶案内」。私のさぼりのせいで、
のびのびになってしまい、ついにお見せすることが
かなわなかった・・・。
謝るのも、しらじらしいので、
もう何も言わないことにする。


お会いして10年になるだろうか。
これまで高鍋に行くたび、家族の一員のように
和気あいあい、つきあっていただいていたが、
だんだん私が足を向けなくなり、
連絡をとることも極端に減っていた。
さらに藤元マスターとのキョリを感じるように
なったのは、美美の森光さんの急逝のあたりである。
これまで森光さんをものすごく慕っていたのに、
藤元マスターから、何の反応もなかったのだ。
娘の朋子さんに任せていたといえばそうなのだろうけど、
何か納得いかない気がして
自分にとっては小さな違和感となっていた。
自分と同じ気持ちをもっていると思っていたのに
どうしたんだだろう、温度差を感じた。


朋子さんによれば、もうだいぶん前から、
藤元マスター自身の考えもかわってきていたらしい。
いくら森光さんに憧れても、
自分は森光さんにはなれないし、もともとが違う人間。
追えば追うほど自分の珈琲とは離れていく、
だから自分は自分の道をいくんだという
前向きな諦観が、藤元マスターのなかに
もうだいぶん前から芽生えていたのだろう。
ただマスター自身も、
「小坂さんともこのまま縁がなくなるっちゃろうか」
と、朋子さんにもらしていたというから、
私と同じ、少し淋しい気持ちを抱いていたのだろう。
けれど、この4月末に私がひょっこり店を訪れ、
数分ほどだったけれど会って話ができたことは、
ふたりにとって新しい門出のように思えて
とても嬉しかったことを覚えている。
たぶん藤元マスターも同じ気持ちだったんじゃないか。



自分の文章を書くのが怖いと臆病になる私の前に、
多くの珈琲屋の人々が、自分のすべてを込めて作った
珈琲をなんの言い訳もせず、まっすぐに差し出してくれる。
目の前でマルかバツか、評価がわかれる
残酷でわかりやすい味覚の世界。
毎回毎回一杯ずつ、奈落の底に落とされるような
気持ちに陥ることもあるだろう。
美味しいという、誰かの何気ないひと言に
ホッとしたり、舞い上がったりする一日もあるだろう。
でも次の瞬間には、もうわからない。
そういう刹那の世界を選び、
何があろうと、やめないで珈琲を作り続けている。
私はそういう店主たちを尊敬してやまない。



「森光さんの焙煎は・・・」
「フジの1キロ釜は・・・」
病床で最後まで焙煎の話をしていたという
藤元信也マスタ−は、病床で『珈琲屋』のチラシを
大事そうに眺めていたと朋子さんから聞かされた。
これからは、朋子さんが「エルザ」の看板を守っていく。
「焙煎は、大丈夫ですから」という
朋子さんの力強い言葉もちゃんと聞きましたから、
藤元マスターは肩の荷を下ろして
居心地のいい場所でゆっくり休んでください。
今までたくさんの珈琲と語らいをありがとうございました。
それではまた明日。



                   (編集発行人 コサカ)



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