第6回 福岡緩和ケア研究会 定例会(2001年7月25日)

私たちのボランティア活動
「こころの痛みを和らげたい――ハウトケア」

講師:岩崎瑞枝(第一保育短期大学/大分医科大看護学科非常勤講師)

1.活動のきっかけ 

小山ムツ子さんとの出会い

私が現在のようなボランティア活動をする大きなきっかけに、小山ムツコさんとの出会いがあります。ご存じの方も多いと思います。「余命半年」と告知されて7年3カ月生きて昨年6月亡くなられたのですが、その間、自称「末期がんリポーター」として患者の立場から様々な活動をしてこられました。

私がボランティア活動の場としている「ファイナルステージを考える会」は、清水大一郎先生、波多江伸子さんとともに彼女が立ち上げられた市民団体ですが、「傾聴力養成講座」の開講も彼女の大きな足跡です。 すでに今年で6期になります。ここにおいでの方にも、受講された方がいらっしゃると思いますが、これは末期がんの患者さんの傍に行って、話を聴くというボランティアを養成するものです。人の話を聴くことが苦手な私は、これはいいと思って受講を申し込んだのですが、それが彼女との出会いでした。この講座の第一期生になります。

傾聴力養成講座は、最後に認定資格を得るための試験があります。これが結構むずかしくて、未だ資格をとった方はいらっしゃらないんじゃないでしょうか。試験官が模擬患者になり(この場合、小山さんご自身です)、実際に傾聴する実地試験なのですが、病室のドアを叩いて入るところから始まります。持ち時間は1人30分。

マニュキア

30分ただ話をじっと聴くことはむずかしいと考えて、私は一計を案じました。実はその頃テレビに出演していたのですが、テレビ局には必ずメイクのプロがいます。彼女に頼んで、マニュキアの道具を一式借りて試験会場(つまり病室)に持っていきました。
 
小山さんは目鼻立ちがはっきりした人で、爪も大きな人でした。もとアナウンサーをしていらして、大変おしゃれでした。私は、病室に入って「小山さん、マニュキアをさせてください」と言いました。そして、彼女の手をとって1本1本丁寧にマニュキアをしていきました。先に塗ってあったマニュキアをはがして、彼女の好みの色に塗り直す。乾く時間をいれるとちょうど30分くらいになります。
 
塗り終わって、小山さんの顔を見たとき驚きました。あの小山さんの目に涙があったんです。残念ながら合格はしませんでしたが、このことから私は患者さんにとってこのような「触れる」という行為がたいへん心地よいことを知りました。その後、小山さんから「岩崎さん、あれを患者さんにしてあげたら」というすすめがあり、現在の活動「ハウトケア」までつながっていきました。

2.ハウトケアの活動

ハウトケア

「ハウトケア」という名称は、耳慣れないものだと思います。ハウトとは、ドイツ語で皮膚を意味します。スキンケアでは、なんだか別のニュアンスになるので、この名称を使っています。これは、エッセンシャルオイルを使用したハンド&フットマッサージです。マッサージのやり方は、アロマセラピーと東洋医学のつぼ、経絡を取り入れたもので、「ファイナルステージを考える会」オリジナルのものです。後ほど、実際に皆さんにも体験していただきます。

活動メンバーと内容

活動の主なメンバーは、「ファイナルステージを考える会」の会員、私が教えている第一保育短期大学の学生有志の人たちです。活動の実際は、「ファイナル」の方に依頼のあった患者さんの入院している病院、あるいは自宅に、メンバーが数人ずつ出向き行っています。その他、現在月に2回、九州がんセンター小児病棟にうかがい、子供たちの保護者を対象にハウトケアを行っています。

末期がん患者・久賀先生

ここに一冊の本があります。著者は久賀征哉さん。「ファイナルステージを考える会」のメンバーでした。朝倉で病院の院長をしていらした外科医でしたが、4年前に喉頭がんが見つかり手術されたのですが再発し、肺や骨に転移して、昨年の5月23日に亡くなられました。再発がわかったとき、偶然書店で手に取った『余命6カ月から読む本』にご自分の病院名が載っていたことから「ファイナル」の方に連絡があり、会員になられたのですが、亡くなるまでの1年、ハウトケアを中心に傾聴にうかがいました。
 
この本『風に吹かれて』は、ご自分の闘病の日々を克明に記したものですが、この中にハウトケアについて1章とって書いて下さっています。 
 その中の一部をご紹介します。 

---ハウトケアはもことに「悲」の心の実践、「慰め」の実践そのものであり、手を撫で、足をさすられることで、閉ざされていた心の痛みが拡散する---(略)。
*ビデオ:久賀先生の闘病生活(『風に吹かれて』)の紹介とハウトケアの実践をFBSのニュースで放映されたもの。
今観ていただいたビデオに出てきた学生は、いちばん熱心に先生のもとにうかがい交流をもったのですが、彼女ははじめこんなふうにきちんと自分の言葉で語れる子ではありませんでした。彼女は亡くなっていかれる先生と親しく交流することで、大きく成長したのだと思います。今、第一保育を卒業して、介護福祉士を目指してがんばっています。 

患者さんとの触れ合いは、一方的な行為ではなく、ボランティアでうかがう私たちも多くのものを患者さんから得るという相方向的な行為であることがわかります。

小児病棟の患児の保護者

もう一つ、私たちの活動例を紹介します。一昨年の7月から、私と学生たちは九州がんセンターの小児病棟に定期的にうかがっています。ここでは主に、患児の母親を対象にハウトケアを行っています。
 
直接、患者に触れないわけですから、何かとガードの固い病院も快く場を提供してくれます。彼らの保護者は、本当に疲れています。小さい子供はじっと抱いていてやらなければならないことも多く、肩は岩のようにこっており、病気の子供をかかえる気苦労や病気の進行具合に神経をとがらせたりと、そのストレスは並大抵のことではありません。そんな保護者の様子をみて、患児は不安を強めることが多いようです。
 
ですから、ここでのハウトケアは「触れ合い」でもあり、実際に心地よいマッサージとしても喜ばれています。また、保育を専門とする大学の学生ですから、病気の子供たちとの触れ合いは彼らの勉強になりますし、子供たちも外部のお兄ちゃん、お姉ちゃんと遊ぶ機会を喜んでくれます。最近は、保護者へのハウトケアを行うグループと、患児たちと遊ぶグループの二班に分れて活動しています。
 今年の4月からは、久留米大学病院の小児科でも保護者のハウトケアを始めました。

3.こころの痛みを和らげたい

「そばにいること」(presence)。この言葉をM・スナイダーの本の中に見つけて、喜んでいます。今日はここで、「ハウトケア」というスキルを使って傾聴する、私たちのボランティア活動の主な内容を紹介してきました。しかし、もっとも大切なことは、この「そばにいること」だと思います。スナイダーは、この言葉を、(1)開放的である (2)未知である (3)注目する (4)一体感をもつ という四つのキーワードで補っています。
 
聖クリストファー・ホスピスのシシリー・ソーンダース博士の語るエピソードに次のようなものがあります。患者に「いま一番してほしいことは何」と尋ねると、「自分のことを思ってくれる人がいればいい」というものだった、と。私たちの活動は、痛みをもっている人の傍で、その人のことを思い共に居ることです。医療者ではない私たちは、治療することはできません。ただ、「触れる」ことで時を共有し、触れ合いが始まり、身体的痛み、そしてこころの痛みを和らげる一助になればと願っています。

How to Haut Care

Haut Care

 参加者が2人1組になり、実際にエッセンシャル・オイルを使用して、岩崎先生の指示にしたがって体験してみる。



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