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2008年12月26日 長期人工呼吸のパイオニアとして

18年前のあるALS患者との出会いが契機となってはじめた長期人工呼吸管理は、これまでに延べ40人弱の患者に行い、現在も30数名が継続中です。18年前は、長期人工呼吸管理という概念さえ確立されておらず、呼吸管理の専門書にもそのような項目はなく、むしろ人工呼吸が長期化するに従い、肺感染症が必発であるという記載でした。内科の教科書にさえ、ALSに人工呼吸を開始してもその多くは2年以内に肺炎などで死亡すると書かれていました(そのため、人工呼吸への導入は慎重にと記載されていました。今と逆の意味合いで、慎重と書かれていたことに時間の長さを感じます)。

慢性の呼吸器疾患が急性増悪し、救命のために人工呼吸をつけても、その多くが助からない、そういう経験を仕事としてきた私からすると、肺自体に病変があるわけではないALS患者に人工呼吸をするとなぜ肺炎が発生するのだろうといぶかりながら始めた長期人工呼吸でしたが、すぐに難問続出でした。患者に意識があるため呼吸困難を強く訴えられる、毎月のように肺炎を起こして熱を出すというありさまで、これでは教科書に書かれている2年さえ私には到底無理だと覚悟せざるを得ませんでした。しかし、1年後に開始したHigh Volume Ventiration高容量換気によって、上の2点が解消できたのです。通常の急性期呼吸管理で行う400ml程度の換気量では、確実に無気肺といって痰が詰まる部分を肺の中に作ってしまい、それが細菌の巣になってしまうが、換気量を増やすことでそれが防げるというもので、このことは2000年の沖縄で開催された日本呼吸管理学会に報告し、大きな反響を得ました。座長からは、発表だけではなく、論文にして提出するよう要請されました。

次の仕事は、鼻マスクによる補助換気という方法がありますが、これを神経難病に行う場合、気管切開も併設して、確実に痰をとるルートを確保することが、結局鼻マスクという声が自由に出せる期間を延ばすことができるし、安全確保になるという提案でした。これは、その後昼間鼻マスク、夜気管切開人工呼吸という方法や、気切補助換気に鼻マスク用のバイレベル換気という方法を導入することにより、弱い自発呼吸にもスムーズな呼吸補助ができること、さらには、気切人工換気でもこの方法で意図的に換気を漏らして、安全に声を出す方法を患者とともに見つけてきました。これらは、呼吸がおちたら即気切人工呼吸となっていた以前のALSの医療に多様な選択肢が確保されたことであり、患者のQOLの向上が図られたことを意味します。以前、東京で開かれたALS患者のNIVについての検討会議で、北海道のN先生がNIVとミニトラックの組み合わせをされていることが、私がNIVと気切との組み合わせとの関わりで議論になりました。いずれも全国的に見ればレアケースに過ぎないと座長から評価されずに議論は進みませんでしたが、最近N先生とは国際会議でお会いして、僕も最近はミニトラックより、小径の気切カニューレを選択するようになっていますと言われました。その後の展開というところで私とN先生はおそらくかなり離れた考えを持っていると思いますが是非一度彼の現場を見に行きたくなりましたが、残念ながらまだ実現していません。

最近のこの方面の仕事では、人工呼吸というのは肺に圧をかけて換気を行うこととなりますが、その圧が何らかの原因によって上がることによりVILI(人工呼吸起因性肺損傷)が発生し、そこで適切な医療を行わないとARDS(急性呼吸促迫症候群)に進んでしまい、死亡するという一連の経過を明らかにできました。そしてこれこそが以前人工呼吸は2年で肺炎で死亡するとされてきた本態ではなかったのかと思います。安全に長期人工呼吸を継続するということは、換気量を多めにとるが、気道内圧には注意し、それが上がった場合には原因を調べて適切な対処をするということが要点といえます。これら一連の仕事に対して、日本呼吸療法医学会より、指定論文という評価をいただきました。同学会の機関誌である「人工呼吸」242号に掲載された論文は、私のホームページ上に、

http://www3.coara.or.jp/~makoty/picturebox/yama200712.pdf

として掲示しています。ご興味のある方やこの分野で看護や介護にたずさわる方は是非ご一読ください。

 もう一つ、呼吸管理そのものからは外れますが、この10年取り組んできたものに、自動吸引装置の開発というものがあります。看護協会や厚労省から研究費を与えられたり、厚労省の研究班に入れていただいたりと、この研究は一定の注目を集めたと思いますが、残念なことに、2008年年末の今、まだ実用化には至っておりません。しかし、安全性と有効性については着実に進化していますし、大手医療機器メーカーの参加の話も出ていますので、近未来的には必ず皆様のもとに届けられるようになると確信しています。この件は、来年の早い段階で詳しくご報告したいと思います。

 よい年の瀬をお迎えください。