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2011年4月7日 原発とリスクマネージメント

ヨット乗りの端くれとして、海側からの福島第一原発の姿を見て、これは全く津波対策などなされていないというくらいは分かった。5mまでの津波に耐えるという説明がなされているようだが、低い突堤で二重に囲んだだけの、台風による5mまでの普通の波に耐える程度の設計でしかなく、海の塊が押し寄せてくるという超長周期の津波に対する対策などには全くなっていないことは、多少とも海に親しむ者なら誰でもわかるはずだ。この程度の防波施設であれば、私たちのヨットを係留している漁港にも存在する。40年前の設計というが、40年間もあったのに何の対策もせずに稼動してきたのかということに驚く。本当はここやばいんだよね、大事にならないうちになんとかしておこうという、普通の判断は働かなかったのはなぜなのだろうか。今回私たちが知ったことは、原発という電力を生み出す施設が、外部電力を喪失すると一気に最大の危機に容易に陥るということである。電源を失った4つの炉が全て同様の危機に陥ったことをみても、そのことは確固たる予測されていた事実と考えて間違いない。たまたま偶然の積み重ねで発生した危機などではない。であればせいぜい問題が起こる炉は一つだけだろう。外部電源が喪失しても、これとこれにさらにこれが加わると危ないとかいうものではない。しかしそのようなことは原発の現場に関わる人間であれば常識であったはずだ。しかもその危機というのは、並たいていの危機ではなく、本当に取り返しのつかない危機になることも分かっていたはずであるから、本来ならそういう危機がおとずれないよう、何十もの危機対策がなされるはずではないか。40年もあったのだから、せめて海岸に防潮堤(そんなものさえない)を張り巡らすとか、もっと高い場所に複数の非常電源装置を設けるとかいろいろできたはずだと思うのだ。少々離れていても高い所に非常電源装置を設置して、地下に電線を通せばリスク管理にはなるはずだからだ。これらの設備など、原発建設に比べたらただみたいな小額でできてしまうだろう。少なくとも非常電源に関わる施設が最も海側に設置するなどということが行われていたということは、津波というものはこの世に存在しないという考えがない限り、ありえない構造であろう。これには原発を管理する人間の考えがそこまで楽観的になれるものなのかと心底驚いてしまう。この不思議な確信が持てたのはなぜだろうか。その根拠は何だったのだろうか。あらためて疑問が尽きない。しかし現実に事は起こってしまった。なぜこういうことが起こってしまうのかはきちんと検証してもらわなくてはならない。一つの原因としては、危機に気づかないふりをすることによって対策をとらなくてもよい、というような私たちの考え方があるからではないかと私は思う。気がついているのに何もしなかったら不作為である。しかし気がつかなかったら、仕方がない。この論理から、気がついているが気がつかないふりをしようと決意したのではないか。確かにさまざまな危機の予測というものはあって、その全てに対応したら日常の営みなどできないということは事実だと思う。いつか巨大地震が来るかもしれないとか、隣家が火事になるかもしれない、はては突然隕石が落ちてくるかもしれないなど、杞憂の語源ではないが、そういう様々な予測あるいは予想しうる危機というものは存在しうる。確かに隕石が原発を直撃したらそれは大変な危機であるだろうし、それが巨大隕石であれば一原発ではなく人類の生存に関わる問題である。そしてこれには対策のしようがない。隕石の直撃を避けるために地下深くに設備を作るとかは考えなくてもよさそうである。隕石ではなくミサイルが直撃することを想定する国なら間違いなくとる対策であろうけども。しかし、津波は隕石ほど偶然の結果とは言えない。例えば原発は50年くらいは稼動することが考えられていると思われるが、50年間に一回も津波が来ない、という設定はこの地域ではおかしいだろう。日本海や瀬戸内海ならともかく、プレート境界が目前にある場所で津波が来ないなどという想定をするのは明らかにおかしい。女川原発が、より震源に近い位置にありながら事故に至らなかったというのは最低限の津波対策がなされていたということである。今から女川原発の写真を見ても、さほど対策がされているようには見えないが、それでも岸壁からさらに斜面を経た上の敷地に施設が設置されている
のがわかる。今回はこれが津波被害から守ったのだと推測される。検索すると、東北電力は津波対策について、確かに考慮されていたことが分かる。東北ではやはり津波は日常のうちなのだ。だからこその盛り土をした上に原発を建てているのだ。それに対して福島第一は、全く考慮してこなかったのは、今さら考慮すると廃炉に追い込まれると考えたからだろうか。つまり、40年前にそのようなことを考えずに建ててしまったが、後から土地をかさ上げすることもできないから放置したということであろうか。これまで津波など来なかったのだから、今後1020年、まさか来ることもあるまい、それなら対策などするのはお金の無駄、と考えたのだ。これはずいぶんと勇敢なお考えである。我々医療の人間にとって、リスクマネージメントというはあくまで患者の安全のためであって、お金に糸目をかけるべきではないというのは、実は建前であって、対策をせずに事故を起こしたときにはもっとお金もかかるし評判も落とす。だから少々お金かけてもリスクマネージメントはきちんとしておこうというのが医業経営としての考え方であろう。非常電源が大事であるなら、二重三重の対策をしておかないと夜も寝られないというのが普通の技術者の考え方のはずである。それを潰したのは、経営が無謀な考え方に立ったからなのであり、これはやはり不作為の刑事事案として検証されるべき事態なのではないかと思う。決して想定外とか天災だとかですましてはならない事案なのだ。