山本の主張

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2020年4月28日 COVID-19への呼吸管理戦略について

COVID-19におけるNYでの人工呼吸管理での結果が異常に悪い。なんと死亡率88%という。少し前からこの問題は明らかになっていたが、医療崩壊の結果と語られることはあっても、何故であるのか、あるいは対策はあるのかという議論はほとんどなされてこなかった。以前この問題をFBでどう思うかと聞かれたときに、通常のARDSでの呼吸管理のような設定が無効なのではないかと答えた。その考えは変わっていないし、僕のなかではさらに固まりつつある。 

集中治療医でもないくせに偉そうなことを言うなと言われそうだが、100例以上の長期人工呼吸管理をしてきたために、慢性期人工呼吸症例もその長いスパンのなかでは結構シビアな局面に陥ることは多く、とくにおそらく胃液誤嚥(あるいは流れ込み)による突発的なARDSの発症はかなり経験してきた。私は慢性期呼吸管理にPEEPはいらないと以前から主張してきた。PEEPゼロと無気肺を作らない高容量換気が意識下の長期人工呼吸に必要な設定であると1992年には気づき、症例を増やしたうえで、2000年には学会や学会誌で主張してきた。その後、慢性期用の人工呼吸器も定量換気のピストン型から従圧換気が得意なタービン型が主流となって、自発呼吸が残っている場合は最小のPEEPを入れ(12くらいだ)PSVで、もはや自発呼吸が消失し、全面強制換気となったらPEEPゼロかつライズタイムを遅くしたPCVに移行して長期の安全性を図るという方式に変更してきた。その理由の一つにHVVでは、男性喫煙者の肺に障害的に働く可能性があるという自験(2018年に難病NW学会発表、本年5月の難病と在宅ケア誌に掲載予定 → (注) 6月号に変更されました)と、PSVをうまく使えばむりやりHVVにしなくても(もちろん相対的過換気は必要)呼吸困難は軽減できるからだ。このあたり今年の日本神経学会での教育講演で主張させていただく予定だったが、新型コロナで学会の開催自体が吹っ飛んだ。 

さて、慢性期症例がARDSに陥ったとき、私の戦略はLow PEEP&LTVだ。いやLTV(Low Tidal Volume;小一回換気量)はある意味結果だ。最高圧を25以内にしたとき、PEEPをゼロにしていても肺の状態が悪いときはVT200台前半しか取れないことになる。そういう場合、換気回数を上げてもpH7.1台になって尿量が激減することがある。その場合はメイロン250mlのボトルを3時間かけて点滴静注し、pHの補正を行う。翌朝にはPCO2100以上であってもpHはなんとか7.3台に戻せて、尿量の増加を得ることができる。その後に高Na血症が合併することがあるがとりあえず放置する。現在、集中治療領域での主流の方法は、高PEEP&LTVである。いわゆる肺保護換気というものだ。障害肺に圧をかけると、障害した肺胞が開いたり閉じたりすることが肺の障害性を進めるという仮説から、開き放しするための高PEEPが味噌である。いわゆるopen lung である。LTVとは、最低限のpH7.25)を維持可能なVTを設定するというものである。この話を以前聞いたときから、私は疑問を感じていた。障害肺を温存することができても、換気に大切な非障害肺を却って悪化させてしまうのではないかと。すでにVILI(Ventilator induced lung injury;人工呼吸起因性肺損傷)という概念があるなか、何がVILIを生じているのか、それは障害肺が場なのか、比較的健常肺が場なのかを考える必要がある。私は障害肺の温存などは捨てて、健常肺に過剰な圧がかからないことがより優先すべき方法だと考える。そのためには障害肺は最初から閉じたままでよいのであって、比較健常肺に過剰圧をかけずに温存することが戦略的に有効だと思うし、実際そのような治療をしてきた。そういう観点からみると、今回のNYでの人工呼吸器死亡率のあまりにもの高さは、このopen lung戦略の反映ではないかと感じた。 

すなわち、コロナ感染肺は、通常のARDSと違いがある可能性を意識することだ。一見通常のARDSに画像上似ていても、病理学的実態は違う可能性がある。コロナウイルスによる肺への感染はおそらく全ての肺組織に生じている。感染があるのは障害肺に限定されてはいないということだ。それが他の原因による多臓器不全の一環としての通常のARDSとは決定的に異なる点である。一見正常に見える部分もウイルスには感染し、障害を受けやすい脆弱性があると考えるべきではないだろうか。従ってとにかく圧を下げて肺組織を温存すべきだ。そしてその方法が無理なら早期にECMOに移行すべきである。日本の学会の見解では、肺障害の早期はL型、後期はH型などとし早期のL型にはあまり高くないPEEPと一定のVTH型にはARDS型の管理、すなわち高PEEPLTVと主張されているが、L型をH型に移行させているのは、L型に対する呼吸管理自体の結果である可能性を考慮すべきだと思う。一定の管理をしていても状態が悪くなると、とくに酸素化が悪くなるとどんどんPEEPをあげたくなる誘惑に陥るが、そこを上げてはコロナの思う壷なのである。それでも日本の成績がNYよりよいのは、当初のPEEPNYほどあげていない緩めのARDS管理をしているといえるのではないか。アメリカはガイドラインの国だ。ARDSとなったらPEEP15まであげるし、ガイドライン以外の方法をとってよい結果が得られないときは訴訟の対象になるバイアスが働く。日本はそこまでシビアではないし、なんとなく通常のARDSより可逆性が強い印象があるので、追い込みすぎる管理をさけている実態があるのではないだろうか。Low PEEP&LTVで乗り切るにはとにかく有効な抗ウイルス剤があるかどうかにかかる。早期よりアビガンやストロメクトールを用いて感染抑制とステロイドを用いてサイトカインストームを避けながら、肺への障害性の低い呼吸管理でなんとか最悪にならないようコントロールしていく、というのがベターな戦略ではないかと思う。